後遺障害の「併合」「相当」「加重」とは?
2023年05月8日
後遺障害等級の認定では、「併合」「相当」「加重」と呼ばれるルールを適用して評価される場合があります。
「併合」「相当」「加重」がそれぞれどのような場合に適用されるのか、詳しく知っている人は多くないでしょう。
今回の記事では「併合」「相当」「加重」の概要や、適用される事例について詳しく解説していきます。
併合とは
併合とは、複数の後遺障害がある場合に、それらをまとめて一つの等級として認定することです。
後遺障害等級には1級から14級までの等級があり、症状に応じて認定されます。
交通事故で複数個所にケガを負い、同時に複数の後遺症が残ってしまった場合であっても、認定される後遺障害等級は一つのみです。
基本的には、以下のルールによって併合が適用されます。
1. 5級以上の後遺障害が複数ある場合は、もっとも重い等級から3つ繰り上げる
2. 8級以上の後遺障害が複数ある場合は、もっとも重い等級から2つ繰り上げる
3. 13級以上の後遺障害が複数ある場合は、もっとも重い等級から1つ繰り上げる
4. 14級の後遺障害が複数ある場合は、14級のまま
たとえば、6級の後遺障害と8級の後遺障害を同時に負ったケースでは、6級から2つ繰り上がり、併合4級が認定されます。
併合が適用されないケース
併合は一定の条件を満たすと適用されますが、次のように併合が適用されないケースも存在します。
・組み合わせの等級がある
・1つの後遺障害が他の障害に含まれている
・1つの後遺障害から他の後遺障害が派生している
・要介護の障害
それぞれのケースについて、以下で詳しく確認していきましょう。
組み合わせの等級がある
あらかじめ決められた組み合わせの等級が存在している場合は、併合は適用されません。
たとえば、交通事故による後遺障害で、両腕を手首からひじの間で腕が切断されたとします。
この場合、5級4号「一上肢を手関節以上で失ったもの」を2つ併合ではなく、2級3号「両上肢を手関節以上で失ったもの」が認定されます。
後遺障害は等級表によって認定基準が定められているため、申請を行う際は、自身の症状がどの等級にあてはまるか確認しておくといいでしょう。
1つの後遺障害が他の障害に含まれている
1つの後遺障害が別の後遺障害に包括的に含まれている場合、併合は適用されない可能性があります。
2つ以上の後遺障害があるように見えても、実際は1つの後遺障害を別の観点から診断しているにすぎないケースがあるためです。
たとえば、交通事故によって左足の大腿骨が変形し、同時に左足が1センチメートル短縮したとします。
この場合、12級8号「長管骨に変形を残すもの」と、13級8号「一下肢を一センチメートル以上短縮したもの」の併合と考える人もいるでしょう。
しかし、足の短縮も長管骨の変形に含まれると評価できるため、実際に認定されるのは12級8号「長管骨に変形を残すもの」のみとなります。
1つの後遺障害から他の後遺障害が派生している
ある後遺障害が原因で別の後遺障害が発生している場合、併合は適用されない可能性があります。
原因となる後遺障害の評価に、派生した後遺障害の影響も考慮されるためです。
たとえば、交通事故によるケガが原因で右足に偽関節が残り、同時に痺れなどの頑固な神経症状が残ったとします。
この場合、症状に該当する後遺障害として、8級9号「一下肢に偽関節を残すもの」と12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」が挙げられます。
しかし、神経症状は偽関節を残した影響で派生しているものと評価できるため、実際に認定されるのは8級9号「一下肢に偽関節を残すもの」のみとなるのです。
要介護の障害
要介護の後遺障害は、併合の対象外になります。
なぜなら併合は、介護不要の1級~14級の後遺障害等級に適用されるルールであり、要介護が認定される「要介護の後遺障害1級」と「要介護の後遺障害2級」には適用がないからです。
要介護の後遺障害等級1級の基準は「常に介護を要するもの」、2級の基準は「随時介護を要するもの」とされています。
「常に介護を要する」と「随時介護を要する」症状は同時に存在しないので、併合のルールは適用されないのです。
相当とは
相当とは、あらかじめ決められた認定基準に該当しない後遺障害が残った場合に、症状の程度に応じた後遺障害等級を認定することです。
後遺障害は、等級表によって症状別の認定基準が定められています。
しかし、交通事故による被害が原因で、等級表の認定基準に該当しない後遺症が生じる可能性もあるでしょう。
このような場合に相当のルールを適用し、相応の後遺障害等級を認定することで、被害者が適切な補償を受けられるようになります。
相当が適用されるケース
相当が適用される主なケースは、次のとおりです。
・後遺障害が後遺障害等級表に属さない
・後遺障害等級表の系列に存在するが該当する障害がない
各ケースについて、以下で具体的に解説します。
後遺障害が後遺障害等級表に属さない
後遺障害等級表に記載されていない後遺障害が発生した場合、相当する後遺障害等級が認定される可能性があります。
後遺障害等級表にはさまざまな後遺障害の症状が規定されていますが、すべての後遺障害をカバーしているわけではありません。
等級表に記載のない後遺障害として、以下のような症状が挙げられます。
・下肢の動揺関節(8級・10級・12級相当)
・上肢の動揺関節(10級・12級相当)
・外傷性散瞳(11級・12級・14級相当)
・嗅覚脱失や味覚脱失(12級相当)
・嗅覚減退(14級相当)
後遺障害等級表の系列に存在するが該当する障害がない
後遺障害等級表の系列に存在する後遺障害であっても、該当する障害がない場合は相当の評価を適用して後遺障害等級を認定します。
後遺障害の系列とは、障害を身体の部位ごとにわけた上で、35種類の障害群に細分したものです。
系列の一例として、部位別の欠損障害・変形障害・短縮障害・機能障害などが挙げられます。
このような系列に該当する後遺障害であっても、後遺障害等級表の具体的な症状にあてはまらない場合は、相当による後遺障害等級が認定されます。
加重とは
加重とは、交通事故による後遺障害が被害者の既存の疾患や障害と関連して、症状がより悪化したり、障害の重さが増したりすることです。
加重の評価は、被害者の病歴や事故前後の状況、事故による後遺障害と既存の疾患・障害との関連性などが検討されます。
加重と認定された場合の保険金額は、既存疾患・障害の等級にあたる保険金額分を控除して支払われるのが一般的です。
既存の疾患・障害は交通事故が原因のものとは限定されていないため、生まれつきの疾患・障害であっても加重が適用される可能性はあります。
加重の例
たとえば、数年前の交通事故で、後遺障害等級12級7号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」と認定されている被害者のケースで想定します。
同じ被害者が再び別の交通事故に巻き込まれ、10級11号「一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの」と認定されたとします。
既存の後遺障害と新たな後遺障害が同一部位・または同一系列であれば、加重と認定されるのが一般的です。
上記のケースで加重と認定された場合は、後遺障害等級10級の保険金額から、12級の保険金額相当分が控除され、差し引いた金額が保険金として支払われます。
後遺障害の「併合」「相当」「加重」を知り適切な認定を受ける
交通事故の被害に遭った際は医師の指示に従って治療を続け、万が一後遺症が残った場合には、速やかに後遺障害等級の申請を行いましょう。
適切な補償を受けるためには、後遺障害の認定基準を理解しておく必要があります。
「併合」「相当」「加重」が適用されるケースは複雑であるため、不安があれば弁護士に相談してアドバイスを受けるのがおすすめです。
専門知識のある弁護士に相談し、正しい申請を行うことで、適切な後遺障害等級の認定を受けられる可能性が高まります。
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